語る禅僧

すでに沢山の方々がまとまった紹介文、評論をお書きになっているので、わたしは雑感を書き込ませていただきます。まず宗教と科学の関係について。最近科学者と宗教者が対談するような企画が時々組まれますが、直哉さんははっきり反対の立場をとっておられるようですね。「そもそも宗教と科学は同じ「真理」を語る異なった方法ではない」というスパッと割り切った云い方、いつものことですがスッキリします。さらに説明を加えて「宗教と科学は、異なる視点で発見した問題をそれぞれの方法で処理するのだ」と続きます。賛成です。直哉さんの本を読んでいてスッとするのは、こういうややもすれば発言がしにくい事柄について文字通り単刀直入にしかも分かりやすい言葉でご自分の考えを言い切るところだと感じています。一方で、これは自分には無理だと思うこともあります。本書のなかで直哉さんは「依法不依人（えほうふえにん）」ということを言っておられますが、これはなかなかできるものではありません。わたしは比較的熱心な大乗仏教徒だと自認していますが、振り返ってみると親しくしていただているお坊さんや尊敬する僧師についていっているので、とても自分だけで仏法に向かいあうことなどできていないし、これからも無理だと思うのです。直哉さんはお若いころ、教会の牧師さんに「信仰は人を信じるのではない。神を信じるものなのです。」といわれて、他宗の人の言葉ながらずっと心にとめていらっしゃるご様子。正直わたしにはできないなぁ、参ったなぁと思った次第。この問題は実はすごく奥の深い問題で、家の宗旨と自分の宗教観といった問題にも繋がります。最後に、第3章の「アメリカ安居体験記」についてですが、かなりの評者の方から載せる必要がなかったのではないかという批判が寄せられているようです。しかしわたしは、この文章が永平寺の機関誌に掲載されてものであること、直哉さんのまた別の一面が垣間見られるという意味で追加掲載される価値が充分にある1章ではないかと考えます。帰り際に老師から「ここでの経験をあまり大事件として考えてはいけない。こだわりすぎてはいけませんよ」と諭されるところなど、グッとくるものがありますよね。こういうさりげないけれど重要なエピソードをさらりと書けるのが直哉さんの凄いところなのだと思います。どなかも書いていらっしゃいましたが、思わず気になった箇所を探して読み返してしまう本ですね。是非手にとってみることをお勧めします。